2017年10月号(2)すでに垣根を越えた!?不動産業界は家電業界へ!?

先月に引き続き、今月も民事信託(家族信託)についてご紹介します。

先月は信託の仕組みを振り返り、様々なケースで信託がご活用いただけることをお伝えいたしました。今月はその中でも現実的に身近で起こりうる事例をもとに信託活用方法をお伝えします。

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アパートを所有している場合

 アパートをご所有の皆さんには一番身近で分かり易い事例だと思います。

父、母、長男(妻と子ども2人)のご家族。お父さんは自己名義のアパートをご所有で家賃収入と年金で生活をされています。最近だんだんと物忘れがひどくなってきたお父さん、息子さんの一番の心配はお父様が「認知症」になってしまうことです。もしお父様が認知症になってしまうとどうなるでしょうか。

管理会社がいる場合アパートが放置されることはありませんが、それでもお父さんの意志判断なしではアパート運営が行き詰まる可能性があります。それは、銀行からお金を借りないと出来ないような大規模な工事(外壁塗装工事や室内リノベーション工事)が認知症を理由に銀行からの融資を受けられないため起こります。

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実際にこんなことがありました。Tオーナーは5階建ての賃貸マンションをご所有です。数年前からマンションに外壁塗装を入れる時期が来ていることは分かっていましたが、1,000万円以上かかる工事をすることに直ぐに決断ができません(当たり前です)。 そして数年その状態が続いた

ある日、最上階の部屋の入居者様から「天井から雨漏りしている」との連絡が入りました。業者に確認してもらったところ建物側面に亀裂が入っておりそこから雨水が浸み込んでいることや、屋上防水が限界にきて水が溜まっていることが分かりました。とうとう外壁塗装を決断する時が来たのですが、実はこの時すでにTオーナーは認知症と診断されていました。その結果、未だに屋上防水や外壁塗装を入れることはできず、現在も応急処置をした状態で様子を見ています・・・。もしも信託により長男さんが早めの運営を開始されていたら銀行からの借入れで工事が実施できていたかもしれません。 (諸説ありますので100%借入れが出来る保証はありませんが、借入が出来る状態にしておくことで、今後の資産運用に違いが生じます。)

 

こんなことが起こる可能性もあります。

 信託を活用するには、前提として「意志能力」があることが条件になります。それはこの信託契約が本当にご自身の意志で結ばれたものなのかどうかという事が最重要ポイントになるからです。同じように、事故や認知症などで自分で判断ができなくなってしまう、つまり意思能力が無くなってしまうと、後見人を付けざるを得ないのです。またその他にどんなことが起こるかご紹介します。

①遺言書が書けません。

信託同様に相続の準備としてしておきたいことが遺言書の作成です。自分が亡くなった後の奥様や家族の為に書いておくべきことがあるはずですが、認知症になるとその意思を残すことができません。さらに最近では遺言書があったとしても相続人同士の不仲などが原因で、あの時お父さんに遺言書を書くほどの意思能力はなかったはずだ!や、書いてもらった遺言書の他に新たな遺言書

が出てくる、という問題も起こっているようです。

②贈与が出来ません。

元気なうちであれば息子さんや娘さん、場合によってはお孫さんに贈与したり、奥様に対して税制の特例などを使って非課税で贈与することが可能です。しかし、認知症になるとたとえ親族でも自分の財産を譲ることができなくなります。昔は「知り合いの司法書士」にお願いすれば出来た贈与も今では「免許を失いたくない」と、司法書士が寄り付きません。

③売却が出来ません。

親族に譲れないものは当然他人にも売れません。後見人を付け家庭裁判所の許可を得た場合は別ですが、その許可を得て売却するのはあくまで「生活のため」であり「資産活用」が目的ではダメ、さらに後見状態はその後も亡くなるまで続きます。しかもその後見人は有料。信託の優れた点は上記 ①~③の問題を解決するだけでなく、その先の対策も出来るという点です。遺言書を書いても、認知症になれば新たな 遺言書の作成は出来なくなりますし、亡くなってしまうとその後の資産運用については指図できません。しかし信託ならその状態から契約内容に基づき法律に縛られない自由な 承継や運用が可能になるのです。「意思能力が無くなる前に」がいつかは誰にも分かりません。対策は早めが肝心です。