2017年11月号(3)相続登記をほったらかしておくと・・・

ある調査では、「所有者不明」の土地が日本全国で約410万ヘクタールに達すると言われています。九州全体の面積が約368万へクタールですので、その規模の大きさが伺えます。

これら「所有者不明」の土地問題が今、全国で災害復旧、空家対策等の公益上の妨げとなっているそうです。

今回の満室委員会は、この「所有者不明」の土地問題について考えてみたいと思います。

 

「所有者不明」の土地が生まれる原因は・・・?

結論から言えば、土地所有者の所在や生死の把握が難しくなる大きな要因に、相続未登記の問題があります。一般的には土地や家屋の所有者が死亡すると、新たに所有者となった相続人は相続登記を行い、不動産登記簿の名義変更を行います。

しかし、この名義変更が義務ではないのです。この名義変更を、いつ行うのか、あるいは名義変更をするか否か、相続人次第です。そのため名義変更が行われなければ、あくまで登記簿上の名義人は死亡者のままでも、実際にはその相続人が所有している状態となります。

相続人複数ならば共有です。更にその後、時の経過とともに、ねずみ算的に相続人が増え、登記情報との乖離が進む事に…。

こうした状態になっても、なんら違法ではないのです。しかし土地を利用しようと、買収やその交渉をする時、果たして所有者全員と連絡が付くのか?当然の事ながら所有者の了解が必要な為、結果として話が進められません。行政でも同じです。

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私が経験したYさんの土地の事例

太宰府市内に土地を所有するご年配のYさんが、査定依頼で当社に来店されました。お話を伺うと、そこで暮らしていたお兄さんが亡くなり、三回忌を終えた為、そろそろこの土地を売却したいとの事。そこで早速、登記簿を調べてみたところ、土地所有者は昭和30年代に亡くなったYさんのお父さんとなっています。

Yさんご了承の上、司法書士に相続人を調べてもらうと、なんと!?法定相続人が81名もいる事が発覚。相続人把握の為、各地にいる相続人の戸籍を集めるだけでも40万円以上費用がかかりました。この土地を売却しようとした場合、Yさんを含む81名がこの土地の売主。本来であれば相続人全員から売却について合意を取り付けなければなりません。しかも現在進行形でこの81名の売主でさえ、いつどうなるのか…?

明日になればまた相続人が増え、連絡が取れない相続人がいても不思議ではありません。そうなると、更に調査費用や売却までの時間がかかります。

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今更ながら相続登記をしてなかった事が悔やまれます。一年前に査定依頼があった今もなお、相続人の追跡調査中なのです

これが売れる不動産で、結果として相続人に売却代金が入るのなら、少しずつでも進みそうなものですが、農地や山林で、単に「持ち分を放棄してほしい」という依頼なら、知らぬ存ぜぬで一向に相続登記が進まない。

そんな事例は山ほどある様です。

 

「所有者不明」の土地解消に向けて

この様に、これまで自治体や国が相続人調査を行なったものの、相続人が増え過ぎて、税金徴収や公共工事の土地買収さえ進まない、そんなケースもあるのです。

従って次世代にこれらの問題を引きずらない為に、様々な対策も検討されています。

まだまだ充分とは言えませんが、今年5月に法務省は相続手続きを簡素化する『法定相続情報証明制度』を新設しました。

これまで相続が発生し、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を集め、これらの書類を法務局や各金融機関の窓口にそれぞれ提出し、その手間や費用を相続人が負担していました。

新しい制度では、最初に戸籍謄本等一式を法務局に提出すれば、その後は法務局が発行する証明書を提出するだけで、手続きが済むとの事です。この相続手続きの簡素化が、相続人や金融機関等の負担軽減を図るとともに、少しでも相続による登記を促し、所有者不明の不動産を解消する狙いです。

先述の通り、これだけでは充分な解決策とは言えませんが、少しずつ機運も高まっていますし、今後更なる法整備に期待されるところです。

今回の満室委員会をご覧になった方で、思い当たる相続未登記の不動産を所有されている方は、くれぐれも手続きはお早めに!

不動産はオリンピックまでが売り時かと…