2018年7月号(1)相続で「限定承認」って何に使えるの?

相続で「限定承認」って何に使えるの?

5月号では「単純承認」、「相続放棄」についてのことでした。今回は「限定承認」について書かせていただきます。相続には3つのパターンがあります。
端的に表すと以下のようになります。

・単純承認;プラス遺産もマイナス遺産も全て相続。
・相続放棄;プラス遺産もマイナス遺産も相続しない。
・限定承認;プラス遺産の範囲内でマイナス遺産も相続する。

実は、この限定承認はほとんど使われていません。統計ではマイナス遺産がある場合、相続放棄が17万件以上あるのに対して、限定承認は1,000件にも満たないのです。         (下の表は国税庁統計資料より抜粋)

年度 相続放棄(件) 限定承認(件) 限定/放棄での比率(%)
H21年 156,419 978 0.62
H22年 160,293 880 0.54
H23年 166,463 889 0.53
H24年 169,300 833 0.49
H25年 172,936 830 0.47
H26年 182,089 770 0.42
H27年 189,381 759 0.4

プラス分で賄えるだけしかマイナス分も引き継がない、金銭的には何の負担もかからないのに何故、限定承認は利用されないのでしょうか?

限定承認のデメリット

限定承認があまり利用されないのには大きく分けて3つ理由があります。

①相続人全員での手続きが必要ということ。つまり、一人でも反対する相続人がいたらできません。②相続放棄と違いプラス遺産でマイナス遺産の処理をしなければなりません。3ヶ月という期限の中で債権者等に対して清算手続きも取らないといけません。③税金を払うことになる可能性があります。限定承認の場合、相続財産を売却・換価してマイナス分を処理することになります。その際に譲渡所得税(不動産取得時より売却時が価格を上回るとき)が発生することもあります。つまり、税務署に申告して税金を払うことになるのです。ここまでデメリットを見てきて、「これほどハードルが高い限定承認という制度にどんな意義があるのか?」と思います。でも、やはり限定承認ならではのメリットがあるのです。

限定承認のメリット

限定承認のメリットは2つあります。

①相続財産を超える債務は相続しないということ。例えば相続財産が1,000万あり、相続債務が2,000万あっても1,000万の債務しか相続しないことになります。そして次が最大のメリットです。②限定承認に限り「先買権」が利用できるということです。「先買権」とは特定の遺産だけを他人より優先的にを取得できる権利です。よくあるのが父が他界したけど母が住んでいる、あるいは母と同居中の相続人がいる等、どうしても残しておきたい不動産を守れるのが限定承認です。もちろん買戻しなので金銭負担は生じますが、相続放棄では何もできません。限定承認のメリット・デメリットをまとめたものが下の表になります。

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