2017年12月号(1)賃貸物件での保険あれこれ《第1章》

賃貸物件での保険あれこれ 第1章

この今月号と来月号、2か月連続で「賃貸物件についての保険」のことを書かせていただきます。管理業務に従事して18年、その間に台風、地震、火災、水漏れ等で実際に経験してきました。尚、私自身は決して「保険のプロ」ではない(代理店募集人資格はあります)のですが、少なくともセミプロくらいの実力はあると自負しています。今月号では大まかな全体像と入居者が加入する保険、来月号ではオーナー様が加入される保険を中心に書かせていただきます。

賃貸物件での保険は大きく分けると「入居者用の保険」と「オーナー用の保険」の2種類です。現実に何か事故が発生した際に、まずは、どちらの保険が適用されるのか?を判断することになります。

 

事故の原因は何か?

一番重要なのは「事故原因」です。それにより、どちらの保険が適用されるのかが判断されます。端的に言えば「入居者の過失」であれば入居者保険、「誰にも過失がない場合」であれば基本的にオーナー保険です。

例えば洗濯機の蛇口を閉めてなかった為に接続されているホースが外れて漏水(実際に結構あります)

この場合だと蛇口が全開状態なので、その部屋の床だけでなく階下の部屋の天井・カベ・私物などに被害が及びます。

こういう場合は原因が「入居者の過失」なので入居者保険を使います。では、入居者はどういう保険に入っているのか?どこまで補償されるのでしょうか?

 

入居者保険の概要

入居者が入る保険は基本的に「自分の家財」に掛ける保険です。当社が取り扱っている一般的なものでは「2年間1万5千円の保険料で家財270万補償」があります。そして、これにはオーナーに対する借家人賠償(建物に対する賠償)として2千万、オーナー以外、例えば他の入居者等に対する個人賠償(他人の身体や私物等の賠償)として1億の補償がセットで付いています。

つまり、例で上げた洗濯機の漏水ではその部屋の床・階下の天井・カベなどが建物に対する補償で、階下の私物に対する補償が個人賠償です(合計1千万超もありました)。

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他にも「転んでガラスを割ってしまった」「重い物を落として床を傷つけた」など「入居者の過失」が認められれば、通常はその入居者保険が使えます。前提として民法709条で「故意または過失によって他人の権利を侵害したる者はこれによって生じたる損害を賠償する責めに任ず」とあり、法律上責任がある為に保険も適用されるのです。ただし、「火災」の場合はちょっと違います。

と言うのも「失火法」(民法の特別法で法律上民法に優先する)には「民法709条の規定は失火の場合にはこれを適用せず。但し、失火者に重大なる過失があるときはこの限りではない」とあるのです。

 

保険と失火法

この失火法は過失の重い軽いによって損害賠償責任の有無が変わる、ということです。つまり「重過失が認められなければ失火者には法的責任を問えない」だから「失火者の保険も使えない」ということなのです。賃貸アパート・マンションでは入居者の保険は部屋単位です。火災で類焼、あるいは放水による被害が周りの部屋にあったとしても「重過失」でなければ当人の保険は出ません。

上述の借家人賠償2千万も個人賠償1億も関係ありません。それぞれの被害者は自分が入っている保険を使うしかないのです。当然、保険に入ってなければ補償はありません。そして建物に被害がある以上、オーナー様も被害者になります。いやはや恐ろしいほど残酷ですね。自慢にはなりませんが、18年の中では2回ほど、こんな悲哀も経験しています。

次号では「オーナー保険」ではどういうものがあるのか?また、どういう保険に入っておけばいいのか?を実例を上げて書かせていただきます。