先月5月25日に、事業融資に関わる新しい担保制度「企業価値担保権」が始動しました 。
これまで、会社が銀行から融資を受ける時は土地や建物といった「不動産担保」を差し出すか、
社長が個人の財産をかけて責任を負う「経営者個人保証」をセットにするのが一般的でした 。

しかしこれからは、不動産などの目に見える資産だけでなく、
会社が持つ技術力、働く人材、ブランド力、将来稼ぐ力といった「無形資産」に企業価値担保権を設定し、
万が一、会社が倒産したりお金が返せなくなったりした場合は、
不動産を競売にかけるのではなく、
会社丸ごと事業譲渡(M&A)などで次の買い手に引き継がせ、
ビジネスを存続させながら資金を回収することを目的としているのです。

企業側にとって最大のメリットは、
「不動産が無くても」、「個人保証がなくても」融資が受けられる点にあります 。
これにより、親から子供へ会社を譲る際や、M&Aで他社に事業を引き継ぐ際、
「何千万円もの借金の連帯保証人になりたくない」という理由で破談になるリスクを防ぎ、
スムーズな事業承継が可能になります。
また、自前の不動産を持っていない先端技術のスタートアップ企業などでも、
将来性を認められれば、巨額の資金調達に挑戦できるようになります。
一方、最大のデメリットは、
会社全体の財産が担保の対象となり、
銀行との約束事の中に「資産を勝手に売却しない」という項目が入れられるため、
会社の意思だけで財産を動かせなくなるリスクがあります。

さらに、この担保の範囲は、設定時点で持っている財産だけでなく、
会社がその「後」に新しく取得した不動産にまで自動的に及んでしまうため、
後から手に入れた不動産であっても自由に動かせなくなるリスクがあるのです。
『法人でもないし、融資も考えていないので大丈夫です!』
ここまで聞いて、私には関係ないと思われた方もいると思いますが、
実はこの制度、今後皆様が不動産の売買をする際のリスクになる恐れがあるのです。
先述の通り、企業価値担保権は後から取得した不動産にも自動的に効力が及んでしまいますが、
この担保がついているかどうかは「不動産登記簿」には一切記載されず、
会社の「商業登記簿」の新設項目を見ないと分からないという大きな盲点があります。

そのため、一見すると不動産登記簿が無担保で安全に見える不動産であっても、
実は会社の企業価値担保権の対象になっていたという「隠れた担保リスク」が発生します。
もし知らずにその法人から物件を購入してしまうと、代金を支払って名義を変更した後であっても、
売主の会社が倒産した途端、銀行から「先に商業登記していた」と主張され、
正当に取得したはずの物件を差し押さえられ、没収されてしまうという最悪の事態になりかねません。
ただし、この制度の実務上の取扱いは“まだまだ不明点だらけ”の状態でスタートしたのが実情です。
もし返済が出来なくなったとき、
「不動産だけを切り離して任意売却できるのか、それとも事業ごと切り売りするしかないのか」など、
具体的なことがまだ確立されていません。
現場での留意事項として、実質的にスタートアップの様な企業はそれほど多くはないと思いますが、
法人所有の不動産売却に関しては必ず、商業登記簿を取得確認する事が必要になります。
今はその動向を見守る段階ですが、
今後、国や銀行から具体的な実務ルールや新しい情報が入り次第、
いち早くみなさまにお知らせいたします。



