2023年12月号(2)責任は誰に!?工作物責任!

台風でゴルフ練習場の鉄塔が倒れ住宅が潰された…。
その責任は一体誰に?この話は、まだ記憶に新しい方も多いと思います。
そう4年前の9月に発生した巨大台風の被害です。
当時は連日ニュースで報道されていました。

このように他人に損害を与えた場合、考えられるのは次の条文です。

民法709条【不法行為による損害賠償】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、
これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

但し今回は自然災害、それも何十年に1度の巨大台風です。
天災なら通常、過失を立証するのは難しいです。
そこで別の条文を探すと下記の「工作物の無過失責任」があります。

民法717条【土地の工作物等の占有者及び所有者の責任】
1項:土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(通常有すべき安全性を欠くこと)があることによって
他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
但し、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、
所有者がその損害を賠償しなければならない。

この条文に照らしてみると鉄塔という「工作物」の設置・保存に「瑕疵」があれば
所有者が無過失でも責任を問われます。つまり、瑕疵がなければ責任を問えず賠償もなし。
だからゴルフ練習場の弁護士は「天災だから法的賠償責任はない」と言い、火事のもらい火と同じ。
潰された住宅に保険がなければ所有者は泣き寝入りするしかありません。
瑕疵の有無は最終的に裁判官の判断となります。
それは建築基準法適合か、風速何メートルの風に耐える設計か等々で…。
普通の台風ぐらいで倒れる鉄塔なら「瑕疵」ありだとしても、
何十年に1度の巨大台風では「瑕疵」なのか「不可抗力」なのか。
ゴルフ練習場が5軒並び立ち全てで鉄塔が倒れれば「不可抗力」と裁判官はまず考えるはずです。
でも4軒無事で1軒だけなら「瑕疵」になるのでしょうか?
※最終的には災害ADR(裁判外紛争解決手続)により和解。
ゴルフ練習場の土地を更地にし売却。
2020年12月にゴルフ場側弁護士が「すべての住民と和解に合意した。」と発表しました。

先述の他にも次のような事案がありましたので、ご紹介させていただきます。

●店舗トイレで客が転倒骨折
ビル1階を賃借し内装した店舗。トイレは押し開きドアで便器はドア床より10㎝高い床。
ドアを開けると目の前には便器が飛び込むのに足元には段差。床の色分けもなく手摺もありませんでした。
ここで67歳女性が足を取られて骨折し、入院37日、人工骨に…。店舗へ860万円の賠償請求をしました。
先述の通り、工作物に瑕疵があり人が害を受けたら工作物占有者に賠償責任です。
そして瑕疵があれば無過失責任です。
つまり無過失でも責任を負います。トイレ設置に瑕疵はあったのでしょうか?
判決は「構造・心理等に起因する本件トイレの危険性に合致した転倒であり、
各種建築マニュアルには段差を付けるなとある。
工作物が通常備えているべき性状、設備、
すなわち安全性を欠いており設置に瑕疵ある工作物であった」と
占有者(テナント)に対し230万の賠償命令を下しました。

●ホテル転落死への賠償命令
ビジネスホテル22階に泊まった会社員。
早朝に避難用バルコニーから転落死亡。
遺族側は工作物責任で逸失利益等1億3200万円をホテル運営会社に請求しました。
アルコール等の検出はなく、他殺自殺でもなく、
裁判所は「誤って転落したと認められる」と判断。
ホテル側は「十分な措置を施していた」と反論。
ですが建築基準法ではバルコニー柵は1.1m以上と規制されているところ実際の柵は72㎝でした。
その判決は「宿泊客が転落する事態を防ぐための通常有すべき安全性を欠いていた」で
賠償1,800万円。ホテル側は消防と個別協議をしていた市の建築確認は取っていたけれど
工作物責任は無過失責任で賠償となりました。

これらの事例から法定設備点検、定期清掃等で
日頃から不具合箇所に目を光らせておく事が大切です。
私達も物件巡回の際は意識して確認します!